気性としては、どこか雄の部分も混じっているのだと、自分でも思う。
 クイーンは、ただ男に愛撫を施されて抱かれるより、逆の立場でいることも好きだった。
 ゲドを自分の下に組み敷いて、クイーンは胸板に這わせた手を、ゆっくりと臍の辺りまで下ろした。
 ほんの僅かに、反応が返ってくる。
 薄闇の中で男の表情を窺うと、長く伸びた前髪が目元を覆っていて、詳しい感情は読み取れなかった。
 今はまだその髪を払い分けることはせず、クイーンは行為を楽しみながら、臍から下を覆うズボンの釦に指を掛けた。
 もったいぶった仕草で、釦を一つ、外した。
 呼吸するごとに上下する男の固い腹に、クイーンは白い指を添わせた。臍の周りを撫で、不意に外した釦の下、直に触れた肌の奥にするりと手を差し入れる。
 その感触に、ゲドは息を詰めて顔を背けた。
 クイーンは嬉しげに微笑を刻み、男の耳元に唇を寄せた。
「……それなりに、誘われてくれてるようじゃないか?」
 男の返事を待たずに、指先に触れたそれを人差し指で軽く撫ぜて、クイーンは手を引き抜いた。
 今夜は、珍しくゲドが急いている。だからこそ、焦らしてやるつもりだった。
「じっとしておいでよ」
 言い付けてから、クイーンは男のズボンのジッパーをつまんで、一番最後まで引き降ろした。
 次いで、ベルト回りに両手をかける。そのまま下方向に降ろしていって、男の腰に手を差し入れて床との間に隙間を作りながら、すっかりズボンを下腹部から降ろしてしまった。
 そのまま一気に膝の辺りまで引き降ろし、さらに男の両方の足首からズボンを引き抜いた。
「おい……」
 クイーンがズボンを脱がせて背後に放り投げたのを見たゲドは、それを取り返そうと手を伸ばしたが、クイーンに止められてしまった。
「私の言い付けを忘れたのかい?」
 クイーンは婉然と微笑み、下着一枚に覆われたゲドの中心を掌で撫で上げた。
 薄暗い室内でも一目で判るほどに、それは屹立していた。
 クイーンはゲドの太股の上に跨って腰を降ろし、自分もズボンのジッパーを降ろして腰周りを緩めた後、目の前の玩具を楽しげに見つめた。
「さて、どうして欲しい……?」
 男の顔に近づいてそう囁き、空いた手は男の首筋をまさぐっている。
 啄ばむように男に口付けを落として顔を離した後、クイーンは順に首筋から鎖骨、筋肉の盛り上がった肩から腕へと舌を這わせていった。
 男の体の全てが、クイーンを煽って火をつける格好の材料だった。
 痩身だが、無駄なく鋼のように鍛え上げられた身体をしていた。全ては剣を握り、相手を打ち倒す為に整えられた体躯だった。所々に昔の名残らしい刀痕や火傷の痕があり、クイーンがそれを舌でなぞると、ひく、と反応が返ってくるのがいとおしくて、クイーンは丹念に男の身体を改めていた。
 そうして臍の下まで改めたところで、クイーンは一旦愛撫を止め、むき出しになった男の太股を膝から上へと撫で上げた。
 指の間に、太股を覆う、毛の感触が伝わる。
 足首から太股までを覆うその毛は、一旦足の付け根で途切れていた。クイーンはその肌を直に伝って、己の指を下着の奥へと侵入させた。
 まさぐった先に、男の熱情の在り処があった。
 それに指を巻きつけ、ほんの僅かに力を入れる。
 その瞬間にゲドが息を詰めたのを、クイーンは敏く聞きつけていた。
 薄く笑い、さらに愛撫を加える。
 波打つように五本の指に力を込め、時折、先端を掠めるように触れる。
 ほんの短い間に質量を増したそれから一旦手を離し、クイーンは手を引き抜いた。
 人差し指の先に滲んで付いた、男の先走った熱情を、ぺろりと舐め取った。
「ふふ……、どこまで我慢できるかねえ?」
 クイーンは艶のある笑みを見せたまま、男の下着に手を掛け、迷いなくそれを引き降ろした。
 手際よく下着を脱がせてしまうと、夜気に晒された男のそれを、目を細めて眺め遣った。
 それは既に、クイーンが手を添えなくても自身で屹立するほどになっていた。
 指で摘むように先端に触れ、ゆっくり過ぎるほど顔を近づけて、ふっと息を吹きかけた。
 先刻酒を酌み交わしていた時から、男が期待しているであろう通りの事をしてやろうと思った。
 あれだけこちらから誘いをかけておいて、何も無しでは済まされないだろう。
 ちろりと目を上げて男の顔を見遣ると、クイーンは目を閉じ、猛るそれに唇を寄せた。
 クイーンの意図に気付いたゲドが身体を起こしかけたのを制して、それを口に含み、舌で輪郭をなぞった。
 ゲドの胸板が上下し、息を止めるのが伝わってくる。
 口内に含んだそれが質量も熱も増すのを、クイーンは昂ぶる感情と共に受け止めていた。
 誰に知られる必要もないが、ゲドにだけは、己の身内に潜む欲望を晒しておきたかった。
 ゲドが欲しいと思う、その望みを。
「…止せ…っ」
 いきなり、ぐいっと頭を押され、クイーンは口に含んでいたものを解放した。
「何、もう我慢できないのかい?」
 含み笑いをして、根元までしっとりと濡らされたそれを指で締め付ける。
「まだまだ、だろう?」
 ――しかし、クイーンが優勢でいられたのはここまでだった。
 いきなり己の下腹部に男の手を感じ、クイーンはぎょっとして下に目を落とした。
 その間に、下着の間に手を差し入れられ、そのまま強引に奥まで侵入されそうになる。
「ちょ、止め……」
 思わず腰を浮かした瞬間に、ゲドが上半身を勢いよく起こした。
 バランスを崩しかけ、倒れそうになったクイーンを支えてやりながらも、ゲドはそのままクイーンを床に寝かせ、再び女の手首を床に押し付けた。
「先刻とは、丁度逆のようだな」
 無表情のようでいて、言葉の端にいつもとは違う声音を感じ、クイーンはにやりと笑い返した。
「目には目を、というわけかい?」
 それに言葉では応じずに、ゲドはクイーンのズボンの中に手を入れた。
 先ほどのように直ではなく、下着越しに、ゲドの骨太な指が女の中心を求めて柔らかな肉をまさぐっている。
 ――それだけで、白旗を挙げそうだった。
 クイーンは唇を噛んで声を堪え、自由の利く片手でゲドの前髪に触れた。
 伸び気味の髪を横に退け、男の表情を探る。
 黙々と行為を続けている男と視線が絡み合った。
 男の隻眼の中に、紛れもない雄の欲を見た気がした。
 それを嫌がって、ゲドが唇を塞いでくる。
 クイーンはそれを受けながら、陶然と瞳を閉ざした。



・・・NEXT・・・





「熾火」